水素透過金属膜は水素だけを通す不思議な膜ですが、すべての金属がそうした性質をもっているわけではありません。
2025年現在最も多く使われている水素透過金属膜は、「パラジウム(Pd)」という金属でできた膜です。おそらくいままで聞いたことのない金属だと思いますが、金とか銀などと同じ貴金属です。
このパラジウムが約150年前に水素を透過させることが分かって以来、ずっと研究が続けられています。
ここで、少し言葉の説明をします。
まず、2つ以上の金属を混ぜたものを「合金(ごうきん)」といいます。
また、水素の通りぬけやすさのことを「水素透過能(すいそとうかのう)」といいます。
この2つの言葉を使って説明していきます。
さて、パラジウムに銀(Ag)や銅(Cu)を混ぜた合金はパラジウム単体よりもさらに優れた性質をもっています。
例えば、パラジウムと銀の合金はパラジウムだけよりも高い水素透過能をもっています。
また、パラジウムと銅の合金は、銅を約50%含んでいるため、パラジウムだけよりも安いです。くわえてパラジウムやパラジウムと銀の合金が苦手とするガスに強いという特性があります。
写真はそれぞれパラジウムと銀の合金とパラジウムと銅の合金です。見た目には全く違いはありませんが、性質は全然違うんですね。それが金属・合金の材料の面白さの1つと言えるでしょう。
しかし、パラジウムやその合金の膜にはいくつかの欠点があります。
1.パラジウムがとても高い金属であるため、あまりたくさん水素透過膜をつくることができない。
2.パラジウムの水素透過能はキレイな水素をたくさんつくるのに十分ではない。
こうした欠点を解決するため、安価でかつ高い水素透過性能を持つ新しい水素透過膜のための金属の開発が求められているのです。
そこで、新しい水素透過金属膜として、ニオブ(Nb)やバナジウム(V)を用いたものが開発されました。
下の表をごらんください。
この表は「周期表(しゅうきひょう)」といって世の中にある元素を似た性質をもつものごとにまとめたものです。
ニオブやバナジウムは周期表の5族(列のことを族という)にあるため、これらの金属を使った透過膜は5族金属系水素透過膜と呼ばれています。
5族金属系水素透過膜は、水素透過能が高く、またパラジウムに比べると格段に安いです。これだけ聞くと、すでに最強っぽいですが、残念ながらこれらにも欠点があります。
5族金属は水素ととても仲がよく、水素をたくさん吸収します。
その結果自らをボロボロにしてしまう「水素脆化(すいそぜいか)」を起こしてしまいます。水素脆化が起こると、膜が壊れる危険が高まってしまいます。
下の図をごらんください。

この図は水素脆化して割れてしまったニオブの膜です。
基本的に金属はよく伸びる性質「延性(えんせい)」を持っているにもかかわらず、水素が入るとこんなふうになっちゃうんですね。
さて、このままでは水素透過膜としては使えないので、この欠点を改善するためにここでも合金を考えます。
色々な合金が開発されていますが、私たちの研究グループではタングステン(W)やモリブデン(Mo)を合金化したものを開発しました。これらの金属はさきほどの周期表の6族にいます。
合金化によって水素脆化を回避することができ、下の図のように水素を透過させたあとも割れていません!

また、こうした合金はパラジウムの約10倍もの高い水素透過能を持っており、水素の通りぬけやすさも申し分ありません。
今後さらに開発が進めば、すごい合金が生まれるかもしれませんね。
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☆ ポイント 代表的な水素透過膜の材料はパラジウムだが、最近ではより安価で水素透過能に優れた5族金属が注目されている。 5族金属は水素脆化しやすいが、合金化によって水素脆化を防ぐことができる。 |